大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和46年(ワ)7178号 判決

原告 有限会社富岡自動車

被告 田村秀雄 外一名

主文

被告田村秀雄は原告に対し金一一一万五六一〇円および内金六八万二七七〇円に対する昭和四五年五月六日から内金四〇万八九九〇円に対する昭和四五年一二月一日から内金二万三八五〇円に対する昭和四七年二月八日から各完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

原告の被告田村秀雄に対するその余の請求を棄却する。

被告田村高之助は原告に対し金一一二万円(ただし内金六八万二七七〇円は被告田村秀雄と連帯して)および内金一〇九万五〇〇〇円に対する昭和四八年三月一日から内金二万五〇〇〇円に対する昭和四六年三月一日から各完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告は、別紙のとおりの裁判を求め、別紙のとおり請求の原因を述べた。

被告田村秀雄(以下被告秀雄という。)は、請求棄却の判決を求め、請求原因事実は認めると述べた。

被告田村高之助(以下被告高之助という。)は適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

理由

(一)  被告秀雄に対する請求について、

1  割賦残代金等の請求について

右自白事実によると、原告の本件乗用車及び貨物車の割賦残代金合計六八万二七七〇円、不渡手数料二万円、修理残代金三八万八九九〇円、廃車手数料立替金二八五〇円、自動車税立替金二万一〇〇〇円の請求は理由があるが、不渡手数料に関する原告その余の請求は、被告秀雄が訴外人門野マサエ(以下訴外人という。)及び高之助提出の手形につき不渡手数料を支払うべき原因となる事実について原告の主張がないので、この部分は理由がない。

2  割賦残代金に対する年三割六分の割合による遅延損害金請求について

原告の右請求は、別紙請求原因一、三、一一の事実によると、本件第一、第二の割賦販売契約を解除しないまま、右各契約に存する「割賦金の支払を一回でも怠つたときは、割賦残金につき日歩二〇銭(年率七割三分)の割合による遅延損害金を支払う」旨の特約にもとづくものであるところ、右契約はいずれも割賦販売法の指定商品である本件乗用車及び貨物車を目的物件とし、代金を二月以上の期間にわたりかつ三回以上に分割して受領することを内容とするものであると認められるので、割賦販売法の適用があるものというべきである。

ところで割賦販売法は、六条において契約解除に伴う損害賠償等の額を制限しているので、本件のように契約が解除されていない場合にも同条を適用し損害賠償の予定または違約金の額を制限することができるかが問題となる。

そこで右の場合に同条を適用することの可否について案ずるに、同条が法定利率を超える損害賠償の予定額を無効としているのは、消費者が指定商品を割賦購入する買主である場合には、割賦販売業者が一方的に定めた損害賠償の予定等を含む定型的契約条項に従うことを余儀なくされ、そのため割賦金の支払が遅延した場合に右条項を根拠に買主が不当過大な遅延損害金等を請求されることの幣害から買主を保護する趣旨であると解せられるところ、右のような同条の趣旨からするとき、本件のように契約が解除されない場合でも同条が適用されると判断するのが相当である。

けだし同条二号の「商品が返還されない場合」と契約が解除されない場合とにおける割賦販売業者と割賦購入の買主との経済的関係(利益状況)は実質的には異ならず、同条の趣旨からして保護される買主を契約を解除された買主に限定する合理的な理由はないからである(更に同条は契約が解除されていない場合には触れていないとして適用を拒否することは、割賦販売業者が契約解除の時期を恣意的に遅らせることによつて同条の主張趣旨を潜脱することを容認することにもなろう)。

もつとも契約が解除されない場合には、割賦販売業者が買主に期限の猶予を与え割賦代金の支払を待つことが多いので、その後においても猶予期間中の金利負担及び代金回収費用等を生じる点において、契約解除の場合と同列に論じることはできないとの反論が予想されるけれども、本件におけるように割賦支払期間が延長される場合は、業者は割賦残代金のほかこれに対する猶予期間中の割賦利息及び割賦手数料を加えたものをもつて猶予後の割賦販売価格とすることによつて右の点を十分補い得るのであつて、猶予期間中の業者の不利益を償わせるため過大な損害金の約定を有効とすべき理由はない。

そうすると本件第一、第二の割賦販売契約の遅延損害金に関する約定のうち割賦残代金に対する商法所定年六分の割合を超える部分は、割賦販売法六条に違反し無効であるから、原告の遅延損害金請求のうち割賦残代金合計六八万二七七〇円に対する商法所定年六分の割合による遅延損害金の請求を求める部分は理由があるけれども、その余の右法定利率を超える部分は理由がないものというべきである。

3  その他に対する遅延損害金請求について

前叙事実によると、被告秀雄は、修理残代金三八万八九九〇円については、原告は遅くとも昭和四五年一一月末日までには被告秀雄の依頼にかかる自動車の修理を完了し引渡したと推認されるので翌一二月一日から、不渡手数料二万円については、本件乗用車関係では昭和四五年五月一日から、本件貨物車関係では昭和四五年五月六日から、立替金合計二万三八五〇円については、本件訴状送達の翌日であること本件記録に徴し明らかな昭和四七年二月八日から、それぞれ右各支払債務について遅滞に陥つたというべきである。

そうすると原告の右請求のうち、右修理残代金及び不渡手数料に対して昭和四五年一二月一日から、右立替金に対して同四七年二月八日から、それぞれ完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるけれども、右立替金に対する訴状送達の日以前の遅延損害金の請求を求める部分は理由がない。

(二)  被告高之助に対する請求について

別紙請求原因事実(ただし五を除く)によると、被告高之助は期限猶予後の割賦販売代金一〇九万五〇〇〇円(ただし内金六八万二七七〇円は被告秀雄と連帯して)及び不渡手数料二万五〇〇〇円並びに前者については昭和四八年三月一日から、後者については昭和四六年三月一日から、それぞれ右完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告の請求はいずれも理由がある。

(三)  結論

以上によると原告の被告秀雄及び同高之助に対する請求は、それぞれ主文掲記の限度内において理由があるから、その限度においてこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条(第九三条)を仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 倉田卓次 中川隆司 大野市太郎)

(別紙)

原告の求める裁判

一 被告田村秀雄は原告に対し金一一六万八六一〇円および

1 内金六八万二七七〇円に対する昭和四五年五月六日から完済に至るまで年三割六分の割合による

2 内金四八万五八四〇円に対する昭和四五年一二月一日より完済に至るまで年六分の割合による

各金員の支払をせよ。

二 被告田村高之助は原告に対し被告田村秀雄と連帯して、金一一二万円及び内金一〇九万五〇〇〇円に対する昭和四八年三月一日から、内金二万三八五〇円に対する昭和四六年三月一日から各完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

三 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

請求の原因

一 原告は自動車の販売及修理を業とするものであるが、被告田村秀雄に対し、昭和四五年一月二〇日左の乗用自動車一台(以下本件乗用車という)を左の約定で売渡した(以下本件第一割賦販売契約という)。

1 車種年式 ニツサンセドリツク 四一年式

2 車体番号 P一三〇―〇〇八三九一

3 売買価額 三三万四五〇〇円

4 支払条件

イ 頭金 三万一四五〇円は現金で支払う。

ロ 残金 三〇万三〇五〇円は一〇回に分割し、昭和四五年二月から同年一〇月まで毎月三万一四五〇円。同年一一月は二万円をそれぞれ毎月末日限り支払う。

5 特約

もし買主が右割賦金の支払を一回でも怠つたときは、期限の利益を失い、残金を一時に支払うこと、この場合自動車は引上げられ、売主の査定により査定して残債務の内入とし、不足分は完済まで百円につき日歩二〇銭の割合の遅延損害金と共に支払うこと。手形を不渡としたときは不渡の日の翌日から不渡手形一枚につき一〇〇〇円の不渡手数料を支払うこと、自動車税は買主の負担とすること。(訴訟の管轄は売主の住所地を管轄する裁判所とすること)

そして同被告は右割賦金と同額の約束手形九枚を振出した(但し、最終回の二万円は手形が不足していた為振出さなかつた。)

二 しかるに被告秀雄は右代金の内九万四三五〇円を支払つたが、昭和四五年四月三〇日に支払うべき割賦金の支払を怠るとともに約束手形を不渡りとし、期限の利益を失い、残額二四万〇一五〇円を即時に支払わなければならないことになつた。

三 これより先、原告はまた被告秀雄に対し、昭和四五年二月二〇日左の貨物自動車一台(以下本件貨物車という)を左の約定で売渡した(以下本件第二割賦販売契約という)。

1 品目年式 三菱フソー 四〇年式

2 車体番号 T三八三-二五五六七二

3 価額 七三万七七〇〇円

4 支払方法

イ 頭金 四万九一八〇円は昭和四五年二月二六日に支払う。

ロ 残金 六八万八五二〇円は一四回に分割し、昭和四五年四月から昭和四六年五月まで毎月五日限り毎回四万九一八〇円ずつ支払う。

5 特約は第一項と同じ。

そして同被告は右割賦金額と同額の約束手形一四通を振出した。

四 しかるに被告秀雄は右代金の内九万八三六〇円を支払つたが、昭和四五年五月五日に支払うべき割賦金からその支払を怠るとともに約束手形を不渡りとし、期限の利益を失い、残額六三万九三四〇円を即時に支払わなければならなくなつた。

五 そこで訴外人は、昭和四五年五月八日被告秀雄の右両割賦残代金債務につき左の約定で連帯保証をした。

1 本件乗用車の残金である二四万〇一五〇円は八回に分割し昭和四五年六月から毎月金三万一四五〇円ずつ、但し最終回は二万円(これは手形が不足して振出さなかつた)をそれぞれ毎月五日限り支払う。

2 本件貨物車の残金である六三万九三四〇円は一三回に分割し、昭和四五年六月から昭和四六年六月まで毎回四万九一八〇円ずつを毎月五日限り支払う。

3 特約は第一項と同じ。

そして右訴外人は右1、2の割賦金と同額の約束手形合計二〇枚を振出した。

六 しかるに被告秀雄及び同訴外人は右割賦残金の内本件貨物車分については昭和四五年六月分から同年九月分まで一九万六七二〇円を支払つたが、同年一〇月分から、また本件乗用車分については初回から支払を怠つて不渡りとし昭和四五年六月六日その残金につき期限の利益を失つた。

七 そこで被告田村高之助は、昭和四五年一二月二九日原告に対し被告田村秀雄の右両割賦金残債務につき連帯保証をなし、前項の割賦残代金債務合計六八万二七七〇円及びこれを昭和四五年五月六日から昭和四八年二月二八日までの割賦弁済とするための割賦利息としてその間百円につき日歩五銭六厘の割合により計算した四一万二二三〇円の利息を含めた合計一〇九万五〇〇〇円を左の約定で支払うことを約束した。

1 右一〇九万五〇〇〇円を二五回に分割し、

昭和四六年二月から同四六年九月まで 三万円ずつ

同年一〇月のみ 二万円

同年一一月のみ 四万円

同年一二月から同四八年二月まで 五万三〇〇〇円ずつ

いずれも毎月末日限り支払う。

2 特約は第一項と同じ

そして被告高之助は右割賦金同額の約束手形二五通を振出した。

八 しかるに被告ら及び前叙訴外人は右割賦金の支払を初回から怠り、昭和四六年三月一日被告高之助は期限の利益を失つた。そして被告田村高之助が振出した約束手形合計金一〇九万五〇〇〇円は全く支払われなかつた。

九 また原告は被告秀雄から昭和四五年一月一二日より同年一一月一四日までの間に同被告の自動車の修理を引受け修理完了後引渡し、その代金は五六万七九九〇円に達したが、同被告はその内一七万九〇〇〇円を支払つただけで、残金三八万八九九〇円を支払わなかつた。

一〇 また被告秀雄は不渡手形手数料として不渡手形二〇通分二万円、訴外人は不渡手形一六通分一万六〇〇〇円、被告高之助は不渡手形二五通分二万五〇〇〇円をそれぞれ支払わない。

一一 また原告は被告秀雄の依頼により本件貨物車の廃車手続をなしたが、その手数料二八五〇円及び同車の昭和四五年一〇月一日から昭和四六年七月三一日まで自動車税二万一〇〇〇円を立替え支払つた。

一二 よつて原告は、

被告秀雄に対し本件乗用車及び貨物車の割賦残代金合計六八万二七七〇円及びこれに対する同被告が期限の利益を失つた昭和四五年五月六日から完済に至るまで約定書(売買契約書第七条)に定めた日歩百円につき二〇銭の範囲内である年三割六分の割合による遅延損害金及び不渡手数料七万三〇〇〇円、修理代残金三八万八九九〇円、廃車手数料二八五〇円、自動車税金二万一〇〇〇円及びこれらに対する昭和四五年一二月一日から完済に至るまで商法所定年六分の率による遅延損害金の支払を求め、

被告高之助に対し、一〇九万五〇〇〇円及び不渡手数料二万五〇〇〇円及び前者に対しては昭和四八年三月一日から、後者に対しては昭和四六年三月一日から各完済に至るまで商法所定年六分の率による遅延損害金の支払を求め、

本訴に及んだ次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例